ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」

夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった……ただ一人街をさまよっていた男は、奇妙な帽子をかぶった女に出会った。彼は気晴らしにその女を誘ってレストランで食事をしカジノ座へ行き、酒を飲んで別れた。そして帰ってみると、喧嘩別れをして家に残してきた妻が彼のネクタイで絞殺されていたのだ! 刻々と迫る死刑執行の日。唯一の目撃者である“幻の女”はどこに? サスペンス小説の巨匠の最高傑作!
(引用/ハヤカワ文庫より)

  • おすすめ度=★★★★★
  • 総評:オールタイムのミステリー名作アンケートなどでも1位に輝く名作ミステリー。この原文を読んだ江戸川乱歩が、大興奮で「ただちに翻訳すべし」と絶賛した事でも有名。作者はサスペンスの巨匠として今もなお映画やドラマの原作に引っ張りだこな、ウィリアム・アイリッシュ。あ、もちろんとうの昔にお亡くなりになられていますよ。
  • 実は、10数年ぶりに再読したのです。お風呂に入りながら。いやあ、全然スジを覚えていなくて、まったく新鮮な気分でハラハラどきどきしながら読みました。「死刑執行前百五十日」から「死刑執行後一日」まで23章としてカウントダウンされながら進む構成が、もうそれだけでサスペンス気分沸騰。ミステリーとしては、犯人探しの点ではたぶんすぐにネタばれしそうなのに、そんなことより主人公たちに感情移入してしまうので、冷静に読んでいられないのです。おそらく原文もそうなんだろうけど、翻訳文も洗練されてて、まったく古さを感じさせないのがさすが。翻訳物が苦手な方にもオススメの、読み出したらやめられない名作です。

幻の女
幻の女
posted with amazlet on 06.02.26
イリアムアイリッシュ 稲葉 明雄
早川書房 (1979/08)
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「with the beatles」

イギリスでトップに立ったビートルズの2nd.アルバム。1stではそれほど目立たなかったジョンの作曲スタイルがいよいよ確立。でもまあ、まだまだカバー曲、それもメジャーなナンバーが多く、ともかくイキの良さを楽しみましょう。1963年リリース。

  • おすすめ度=85点(オールディーズながらちゃんとR&R)
  • リピート度=85点(ま、これも好みの問題ということで)
  • 名盤度=90点(初期の有名曲がいっぱい)
  • 好きな曲
    • It Won't Be Long」:オープニング曲。これも、シングルに切ってもおかしくないキャッチーなナンバー。それも‘イエイ、イエイ’とか、かなり確信犯。Aメロ→Bメロ→Aメロ→Cメロ→Bメロと続く、早くもジョンらしい変則的な構成が愉快。
    • All My Loving」:やっぱりジョンのバッキングギターですよね。実際に曲に合わせて一緒に弾くと、テンポのあまりの早さにびっくり。かなり、意地になって弾いたな。ポールによるメロディーは、すでにR&Rのフォーマットではなく、いわゆるニューミュージックなコード進行なのが、また、ね。先取りしすぎ。
    • Till There Was You」:これはカバー曲。全面的にガットギターがフィーチャーされているんだけど、これがまた上手いのだ。エレキギターしか弾いていないギタリストには絶対にできない洗練されたプレイ。ポールのボーカルもね、きっと小さい頃からこういう曲を好きで歌ってたんだろうな、ていうくらい堂に入ったもの。
    • Money」:ある意味、前作ラストの「Twist And Shout」以上のジョンのシャウトが堪能出来ます。コード進行が動いても委細構わずなメインのギターリフがいかにもロック。ストーンズ版と比べてもロック度はかなり高いです。
  • 総評:カバー曲の端正なシンプルさに比べると、オリジナル曲はやっぱりちょっとずつひねくれてます。そりゃちょっと強引だろ!ってな部分もちらほら(「Hold Me Tight」とか)。でも、そこをあくまでも追求していくことで、どんどん‘ビートリッシュ’なメロディーが確立していくわけですね。だから、やっぱりB面の有名曲カバー大会よりはA面の方が好きです。

With the Beatles
With the Beatles
posted with amazlet on 06.02.15
The Beatles
Capitol (1990/10/25)
売り上げランキング: 52,126

「Please Please Me」

小原かずよが担当するfm GIGお昼の生放送「トワイライト・ブレイク」火曜日では、‘冴沢学園’というコーナーがあって、あまり音楽に詳しくないかずよ嬢のために、ちょこっと音楽のウンチクをしゃべってます。2月からはBeatlesを特集中。デビューから順番に、毎週1枚ずつ取り上げてます。
そんなこんなで、まずはデビューアルバムから。1963年リリース。

  • おすすめ度=85点(いきのいいビートルズが楽しめる)
  • リピート度=80点(ま、好みの問題ということで)
  • 名盤度=85点(この当時のサウンドとしてはかなり画期的)
  • 好きな曲
    • I Saw Her Standing There」:オープニング曲。すごいのは、これだけキャッチーで、かつオリジナリティーあふれるR&Rナンバーを、シングルにしていないということ。
    • There's A Place」:こういう‘コードにない音’が多用されるメロディーって、当時はもちろんかなり画期的だったんじゃないかなあ。それでハモってるもんねえ。抜群の音感が伺えるというもんです。
  • 総評:シングル以外の収録曲(10曲あたり)を、1日で、一発録りで録り終えたという伝説のデビューアルバム。当時の他のバンド(ストーンズやらキンクスやら)と比べても、圧倒的な演奏力を改めて感じます。初期のビートルズってあんまり好きではなかったんだけど、最近聴き直して、段々好きになってきたかな。ずっと曲中心に聴いてきたんだけど、やっと‘バンド’としての演奏力やアレンジセンスをじっくり聴くようになってきました。デビュー前から、ものすごい量のライブをこなしてきただけあって、勢いだけに頼らない細かなアレンジが、やはり只物でなさを感じさせます。

Please Please Me
Please Please Me
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The Beatles
Capitol (1990/10/25)
売り上げランキング: 90,781

渡辺真知子「ブルー」

渡辺真知子の3rd.シングル。1978年リリース。

  • 名曲度=90点(オーソドックスな名曲)
  • 普遍度=92点(歌唱力さえ伴えば、カバーはしやすいかも)
  • カラオケ度=78点(相当の実力がないと、このサビは歌えない)
  • 総評:前2作に比べたら普通のニューミュージック。当時の女性シンガーソングライターが、必ず一度は手を出していたマイナーのボサノバ調。でも、やっぱりイントロから掴みはバッチリ。いきなりチェンバロですからね。当時、FM大阪のスタジオライブ番組で、八神純子がこの曲を歌っていた。代わりに渡辺真知子八神純子のデビュー曲で同じボサノバ調の「想い出は美しすぎて」を歌唱。どっちもハマりすぎ。今考えても、贅沢な競演ですなあ。この曲は、何と言ってもサビでの強引な高音フレーズで、八神純子の「みずいろの雨」と並ぶ、‘シンガーを選ぶ’曲です。どちらも、歌えればいいだけでなく、‘色気’と‘情感’を必要としますからねえ。ここまでの3曲とも、とっても大好きだったんだけど、実際にレコードを買ったのはこの後の(低迷しはじめてからの)アルバムからなのは、我ながら不思議。

※こういう‘豪快な歌唱力’に触れてしまうと、たとえば平原綾香でも‘口先だけ’に聞こえて、なんかこう、もどかしく感じてしまうんですよね。いわゆるR&B風の歌唱法すべてに当てはまるんだけど。

渡辺真知子「かもめが跳んだ日」

「迷い道」に続く、渡辺真知子の2nd.シングル。1978年リリース。

  • 名曲度=100点(非の打ち所のない名曲)
  • 普遍度=95点(いつどこで誰が聞いても有無を言わせぬ迫力がある)
  • カラオケ度=78点(相当の実力がないと、出だしから歌えない)
  • 総評:前作「迷い道」でもたいがいのインパクトなのに、それ以上にインパクトのある曲。やはりイントロからハートわしづかみですよ。これで世界歌謡祭に出ていたら絶対グランプリを穫れたはず。ちなみに78年のグランプリはかの有名な「夢想花」。う〜ん、いい勝負だ。彼女は、もちろんニューミュージックというくくりで登場したんだけど、あらためて聞くとサウンドスタイルはとても独特なんですよね。当時のニューミュージックは、多かれ少なかれフュージョンのテイストが不可分で、船山基紀によるアレンジも、演奏もフュージョン寄りなんだけど、完成した楽曲はフュージョンっぽくないんですよね。かといって(当時の基準でいう)歌謡曲よりは洗練されているし、でも歌詞はフォークっぽい失恋歌だし、声は情感あふれてるし。泥臭さと洗練のギリギリのところで成立している感じ。だからこそ、このデビュ−2曲のアレンジは、本当に素晴らしい仕事ぶりだと思う。なんで1位穫れなかったのかな。よくテレビに出ていたから、カリスマっぽさは欠けていたかな。この曲でデビューして、先にCMかなんかで露出して、売れるまでテレビに出なかったら1位まで駆け上がったかも。ちょっとアイドルっぽい扱いもされてたからねえ。なんかいい感じのお姉さんて感じだったんですよ。

※今、あらためて聞いたんだけど、このアレンジ、尋常じゃないテンションとスピード感です。これを生演奏って、すげえ。

渡辺真知子「迷い道」

今も確かな歌唱力でもって現役で活躍中のシンガーソングライター、渡辺真知子のデビュー曲。1977年リリース。

  • 名曲度=90点(歌詞といいメロディーといいインパクト抜群)
  • 普遍度=85点(完成されている分、リヴァイヴァルさせにくいかも)
  • カラオケ度=95点(彼女の曲の中では歌いやすい方)
  • 総評:イントロのフレーズから出だしの歌詞(現在・過去・未来 あの人に逢ったなら〜)、サビに至るまで、何が欠けても成立しない、組み上がったジグゾーパズルのような無駄のない名曲。しかもインパクト抜群。なにせ締めのフレーズが‘迷い道 くねくね’ですからね。くねくね、って、そんなフレーズ、失恋の曲でなかなか使えないですよ。初めてラジオで聴いたときから(まだ小学生だったけど)とても印象に残っていて、勝手に‘長い髪の毛で細面の美人〜今で言えば麻生久美子のような〜’をイメージしていたんですよね。で、レコード屋でジャケット写真を見たとき、ちょっと愕然としました。僕のイメージがどうこうというより、あのジャケットは良くないですよね。あんなひどい写真、よくOKを出したなあ、と。中島みゆきの「夜風の中から」と匹敵する、ひどい写真のジャケットだと思う。曲自体は1位をとってもおかしくないクオリティーだったのに、3位どまりだったのは絶対あの写真のせいだな。

久保田早紀「天界」

久保田早紀のセカンドアルバム。大ヒットのデビュー作から1年でリリースしたにもかかわらず、売上は一気に落下。当時、僕は発売と同時に買って随分聞き込んだけど、前作に劣らないクオリティーなのに、なぜ世間は彼女に冷たいのか理解に苦しんだ覚えが。原因はいろいろ考えられるんですけどね。基本的に世界観は前作の延長で、「異邦人」が好きな人ならまさに期待通りの名曲ばかり。名匠萩田光雄のアレンジも相変わらず素晴らしく、やはり最高ののスタジオミュージシャンによる最高のプレイも聴きごたえ十分。1980年リリース。

  • おすすめ度=100点(黙って聴くべし)
  • リピート度=100点(何万回聴いても飽きがこない)
  • 名盤度=98点(100点でもいいくらい)
  • 好きな曲〜もちろん全曲素晴らしい
    • 碧の館」:前作の「ギター弾きを見ませんか」に続くファド風ボサノバ。今回はガットギター2本の絡みが素晴らしい。歌詞が幻想的で、曲調もそれに合わせて非常に緊張感と雰囲気のある名曲。‘碧の館に吸い込まれてしまった いたずらな恋におぼれてみたくて’って、恋に恋する危うい少女の夢世界が炸裂。
    • 葡萄樹の娘」:結婚を誓った恋人を、浮気な悪い女に盗られた歌。こう書くととってもドロドロしているけど、曲調は格調高くてドラマティック。舞台が‘村’ですからね。それも日本の村ではないですよ。葡萄樹があるんだから、やはりヨーロッパなわけですね。サビの高音がとても美しいです。
    • 田園協奏曲」:今度は舞台が避暑地ですよ。小さい頃から大好きだった人が、先に大人になって別れを告げるという、前作の「白夜」の悲劇的なパターン。ピアノとストリングスだけのアレンジが心にしみます。彼女のちょっとハスキーな声が、また静かな悲しさを感じさせるんですよねえ。
  • 総評:いやあ、10数年ぶりにこのアルバムを聴きました(ずっとCDを持ってなかったので)。なんかもう、感動ですよ。全然色褪せていない。むしろ、昔は気づかなかったサウンド面のクオリティーに驚くばかり。やはり‘生の演奏’というものは、時代を超える力がありますなあ。上で選んだのはおとなしめの曲ばかりですが、全体の印象は前作よりもっと派手かも。オープニングの「シャングリラ」に象徴される、フュージョン系のサウンドに彩られた宇宙的な世界観の曲も多く、アルバムタイトル「天界」に恥じない意欲作です。「アクエリアン・エイジ」なんざ、めっちゃクールでカッコいいですぜ。ただ、出だしの派手さとは裏腹に、聞き終わった後は非常に寂しい気分になるんですね。それはまあ、歌詞のせいで、前作にはまだ‘再会への期待’みたいなものがあったけど、このアルバムには‘別れ’ばかり。それはまさに、前作のラスト「星空の少年」と、このアルバムのラスト「最終ページ」を比べれば明らかで、このアルバムを最後に、夢見る少女の時代は終わってしまうわけです。