レイ・ブラッドベリ「刺青の男」

その大男は暑い夏なのにウールのシャツを着、胸もとから手首まできっちりボタンをかけていた。男は全身に彫った18の刺青を、18の秘密の物語を隠していたのだ。夜、月あかりを浴びると刺青の絵は動きだし、あえかな劇を、未来の劇を、18の物語を演じだすのだった・・・。刺青の男とは、重苦しい過去と、それ以上に重苦しいかもしれぬ未来とを一身に背負った人類である。この18の短編は、宇宙旅行原水爆、童心、宗教、宇宙人の侵入、人種問題などをテーマにした詩的で劇的な物語である。幻想と詩情にみちた最も美しい、最も異様な短編集!
(引用/ハヤカワ文庫より)

  • おすすめ度=★★★★★
  • 総評:僕が、読書好きの人に出会って何かを本をプレゼントしようと思った時に選ぶ一冊。ミステリーに比べ、SFにはそれほど造詣が深くはないけど、ブラッドベリに興味を持って最初に買ったのがこの本。もうかれこれ20年近く前だなあ。短編集だし、入門にはいいかなと思って。で、これが大正解。すごいですよ、この本は。思わせぶりでもったいをつけたオープニングに続き語られる第一話「草原」は、星新一にもありそうな未来生活のシチュエーションながら、結末はかなりブラック。いわゆる物質文明への批判を感じるちょっと怖い話。そして第二話が「万華鏡」。もうね、これがすごい。僕はここでノックアウト。読み終わった後の余韻たるや。突然のロケットの事故で宇宙空間に放り出された乗組員達。宇宙の闇へ四方八方へ落ちていきながら、ただひとつ繋がっている無線機で交わす会話。恐怖で叫び続けるもの、悪態をつくもの、楽しかった想い出話を語り続けるもの・・・ひとりは火星へ、ひとりは流星群へ、ひとりはなつかしの地球へ、死の闇へ落ちてゆきながら交わす会話。あなたなら何を語り、何を考えますか。
  • その他、無事に帰ってきてもすぐにまた宇宙へ行こうとする男とその妻の物語「ロケット・マン」や、貧しい父親が子ども達のためにロケットに乗る夢を叶えるラストの心温まるストーリー「ロケット」(まるでドラえもんにありそうな話。泣けるのだ、これがまた)など、SFというより‘文学’と呼ぶにふさわしい短編が収録された名作です。
  • ブラッドベリはほとんどの作品を読んだけど、独特ですよね。ウェットだけどクール。怖い話だけど胸にしみる。描かれる人間達が、不完全だけど憎めない、嫌な奴でも最後はいい奴かもと思えてしまう、そんな文章を書く作家です。あと、行った事もない街だけど懐かしい気分になる、そんな世界。
  • この本を手に取ったのは、もちろんストーンズの名作アルバムと同じタイトルだからです。原題は違うけど。
  • なぜか、ハヤカワ文庫では絶版中らしい。何を考えてるねん。つうか、久しぶりに本屋のハヤカワコーナーを見たら、古典のスペースが大幅に縮小されているではないか。いろいろ事情はあるだろうが、がんばってくれないと。

刺青の男
刺青の男
posted with amazlet on 06.03.09
レイ・ブラッドベリ 小笠原 豊樹
早川書房 (1976/02)
売り上げランキング: 596,724