「英雄と悪漢」

1975年にリリースされた甲斐バンドの2nd.アルバム。アマチュア時代の曲で構成された1st.アルバムのプロデュースに反発し、イチかバチかの自我を押し出して制作された、若さの気迫あふれる名盤。甲斐よしひろ自筆(かなり字はヘタクソ)のライナーノーツに、そのへんの熱い思いがぶちまけられてて、その青さが胸をうちます。

  • おすすめ度=60点(いきなりこれからは厳しいものが)
  • リピート度=90点(ハマった人は一生聴き続けるでしょう)
  • 名盤度=98点(捨て曲なし)
  • 好きな曲・・・困ったな。全部好きなんだ。
    • ポップコーンをほおばって」:オープニング曲。アマチュア時代から歌ってた曲で、いびつな構成も含め、歌詞のそこかしこに未熟さが感じられるんだけど、それもこれもサビの‘ポップコーンをほおばって 天使たちの声に耳をかたむけている’という映画的なフレーズで美しいシーンに昇華させられてしまう希代の名曲。アレンジもいいんですよ。テクニック的には中学生にもコピーできるくらい簡単なフレーズばかりなんだけど、一切無駄なことをせずにここまでドラマティックに盛り上げてしまえるところに、これからずっと続く甲斐バンドサウンドの神髄が詰め込まれてて、侮れないです。デビューしてすぐにこういう曲を持つことができたバンドは、そりゃあいいライブができますよ。実際甲斐バンドは、この後セールスで落ち込んだ時期も着実にライブでファンを増やしていけるんですね。
    • 光と影」:曲もいいんだけど、とにかく歌詞が好き。昔からずっと、そして今でもこんな歌詞を書きたいと思ってる。‘喜びと悲しみは背中合わせに いつも並んで座ってる 君がひと気のない電車に揺られ ホームに足をおろす時 愛しい人の暖かさを知るように’。これが「詩」というものですよ。これもアレンジがとてもいい。別にアコースティックギターだけでも済むようなフォークソングなのに、ああいうドラムの使い方をするなんて。ちゃんとバンドアレンジになってるんですね。ベースアレンジもよく考えられてるし。
    • 風が唄った日」:青い曲です。熱い曲です。‘どんな小さなものでもすぐにこの手に拾い上げねば 時代は変わりゆく 風が唄った日’。ストリングスアレンジがいいよねえ。特に僕はストリングスが好きだから、もう聞き入るばかり。
  • 総評:ファンにとっては言わずもがなの、甲斐バンドを代表する一枚。最高傑作に推す人も多いでしょう。とにかく70年代の青春のリアルな姿があますところなく描かれてます。それがね、現代も、そして未来にも伝わるのかどうか。僕は大阪の下町の工場街で育った人間だから、空気としてこのアルバムに描かれている人間像や街の姿はとてもリアルに実感できるのです。バブルな80年代には過去の遺物として葬り去られかけたサウンドだけど、もしかしたら再評価されるかも。個人的にもいろいろ想い出が詰まった、大事な一枚。

英雄と悪漢
英雄と悪漢
posted with amazlet on 05.12.09
甲斐バンド
東芝EMI (2001/06/27)
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